イメージ的には今の3Dプリンタに近いようなシステムです。
残念ながら当時はまともな電子回路図CADソフトが使える環境になかったのと、
ユニバーサル基板を切った張ったするだけで間に合うことしかしてなかったため
利用経験はないのですが、そういう物があるというのは知っていました。
時は流れプリンタから銀インクを専用紙に印刷することで、
ペラペラの電子回路基板が製作できるようになりました。
AgICの製品で同社のウェブショップから購入できます。
趣味程度しか使わないのでプリンタや銀インクは値段が高過ぎるという方向けには
フリーハンドで回路を書けるペンと専用紙があります。
私は試しにペンと専用紙のセットを購入してみたので、
実際に使ってみた感想等書いてみます。
専用紙にペンで線を引くと綺麗な銀色になり、テスターで導通が確認できます。
試しに手元にある電池とLEDと適当な抵抗器をAgICのペンで直列につなぐとちゃんとLEDが点灯しました。
普通紙は使えませんがインクジェットプリンタ用の写真を印刷するような光沢紙なら使えます。
ちょうどブラザーの写真光沢紙があったのでこれに描いてみるとちゃんと回路になりました。
購入した専用紙はこの光沢紙のように綺麗でピカピカで、やや固い質感です。
なのでもしかしてと思いつつホワイトボードに描いてみましたが残念ながらだめでした。
なお描いた線はエタノールで湿らせたティッシュで擦って消すことができます。
また端子以外の部分の表面を絶縁できないかなと油性のマジックを塗ってみましたが電流は通り抜けてしまいます。
必要ならテープ等で対策することになります。
剥がすときや経年変化を考慮してメンディングテープがいいと思うのですが、
専用紙が硬質でインクもきっちり定着するので、
セロハンテープでも無事に剥がすのは難しくありません。
あるいは修正テープを貼ることでも絶縁できました。
私は試していませんが修正液でも可能かもしれません。
ただし素材的にちゃんと絶縁できる事を確認してから使ってください。
なお、これらテープを貼った上にAgICペンで配線を書いても電気は流れません。
つまり回路を立体交差にはできません。
ただ細く切った専用紙に配線を書いてメイン基板の配線とうまく接触させることで
ジャンパーの様に使うことはできます。ペーパークラフトですね。
また専用紙や光沢紙には通常裏表があり裏面には銀インクが定着しないので両面基板にすることはできませんが、
専用紙を裏面を張り合わせる様にすれば両面っぽく使えます。
スルーホールは鉄製の針で閉じるホッチキスで実現可能です。
針と配線がきちんと接触する様にすれば何とかなります。
ということでAgICは今のところは惜しい製品に過ぎないと感じました。
ホワイトボードに水性のAgICペンで描いたり消したりしながら回路を作り、
くっついている部品の結線を自由に変えられるとおもしろそうです。
が、それなら自由度が落ちはするもののブレッドボードでできるわけで、
ブレッドボードで動作確認した回路を永続化したいときに、
プリント基板を作るほど金は掛けられないけど、
かと言ってユニバーサル基板で作る手間も掛けたくない、
というような場合の解ということになりそうです。
ちょっとした半完成品をつくるためのシステムと考えればいいでしょう。
ペンのアイディアはともかく、最悪なのは部品の接着です。
ブレッドボードなら穴に挿すだけですし、通常の基板なら半田でくっつけられます。
AgICの場合は導電性接着剤を使うことになるのですが、
これが接着剤と言うよりはセメントのような物で乾くのが遅く
脚付き部品など重くてとてもじゃないがくっつかない。
瞬間接着剤で動かないように仮固定してから導電性接着剤でくっつけ、
上からエポキシ樹脂系の強力な接着剤で固めてしまうとかしないと話になりません。
しかもこの導電性接着剤、間違ったところについてしまうと
ティッシュで拭おうとしても広がるばかりでとれず余計なところが導通してしまいます。
軽くて小さい表面実装部品を使うにしても、大量に載せるのは悪夢のような作業になりそうです。
また、導電性接着剤に付属の注射器の針先は一度使うと固まって出てこなくなります。
つまった状態で無理にピストンに力を加えると針先が吹っ飛んで中身をぶちまける悲劇に見舞われます。
ということでこの部分が改善されないと二度と使わないような気がします。
Kickstarterでの投資でもらえる特典のお試しセットには導電性テープを使っていて、
それがZ軸コンダクティブテープのような異方性導電性物質だったようですが、
なぜ接着剤に替わってしまったのか?
多分テープの方が楽に使えるはずです。
ちなみに専用紙の上にクリーム半田を盛ってオーブントースターで焼いてみたところ、
銀インクの配線に一応定着し導通もするのでチップ抵抗等ならくっつきそうです。
問題は熱による電子部品へのダメージと紙がこんがりときつね色になることでしょうか。
専用紙の焦げた部分は銀インクが載らなくなります。
一応半田ごても使ってみましたが、
半田は配線側にちっとも馴染まず、こて先にまとわりつくばかりです。
と言うわけで半田はお勧めできません。
何だか問題点ばかり並べたような気もしますが、
AgICのこのシステムを実用にするには、
- 部品の接着の容易化
- 立体交差配線の容易化
- 配線絶縁の機械化
確かに多数の基板作成の際の手間と時間は節約できるのでしょうが、
現状では部品点数が多くなるとそれを付けるのに地獄を見ることになりそうです。
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